なぜ相続全般の専門家がいないのか

昨日の続きです。

相続は、人が年老いて亡くなり,その権利義務が別の人に引き継がれるという複雑なものだとお話ししました。

そして、関与する専門家が多数存在するのです。遺言は、信託銀行、弁護士、税理士、司法書士、行政書士など(行政書士の関与の適法性には疑問がありますが)などが関わります。

財産管理、成年後見は司法書士、弁護士など。

相続税の申告は,税理士。相続人が税務署と直接やりとりをする場合も多いです。

遺産分割は、弁護士、税理士、司法書士。

遺産分割調停、審判は相続人+弁護士。

不動産が多い場合には土地家屋調査士。

そして、専門家および裁判所の発想もかなり違う場合があると思われます。

特に成年後見に顕著に表れます。

成年後見は、家庭裁判所が監督します。判断力の低下した個人をその自己決定権を尊重しつつ保護するという制度ですが、あくまでその個人を保護するというものです。家族の保護という発想はありません。

一方、税理士さんの発想として、節税のために成年後見を活用できないか、というものがあるようです。私は、後見人、後見監督人を多数経験していますが、実際複数の税理士さんから節税のため、という要望を聞きました。相続税の節税は、直接的にはご本人のためというよりは遺族のためということです。ご本人も節税は喜ぶはずだ、ということはもちろん考えられますが、二次的であり、節税よりも本人保護のための別の要請がある場合や、節税対策に本人の財産を減少させるリスクがある場合等には節税対策は劣後します。家庭裁判所は、少しでもリスクがあると感じられる場合にはやめるよう事実上指導することがあります。

このように、多数の専門家が関わることがあり、専門家の守備範囲が異なることから、全体とみられる専門家が存在しにくいのです。

一番トータルで見やすいのは弁護士ですが、やはり税務については、税理士ですし、不動産の評価は結局土地家屋調査士に頼らざるを得ません。

それでも、可能な範囲で広く研究などして、適切なアドバイスを出来るよう日々研鑽し、かつ手に余るものについてはすぐに他の専門家のアドバイスを受けるないしつなぐということが大事です。

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