九条の大罪という漫画は、突っ込み所が多い。ただしこれは褒めている面もある。私も昔テレビドラマで法的監修を、といわれて手伝ったことがあるが、実際法的意見はあまりとおらない。テレビドラマは法律実務家からすると荒唐無稽、「トンデモ」が多い。だからテレビの弁護士等がテーマのドラマは見る気がしないことが多い。突っ込む気にすらならない、のだ。
一方、九条の大罪は、かなり法的にもくわしいな、と感じられることもあり突っ込みたくもなる。
★被害者が事故時死んでいた?
この話では、父と子供が轢かれ多という事件だが、父は事故前に心臓発作で倒れて死亡直後に轢かれた疑いがある、とされ、九条弁護士が健康保険組合に照会を掛け病院に開示を求めて被害者(父)の病歴を調べた、とある。
被害者が轢かれたとき死んでいた、というのは交通事故が重なったときに時々見かける論点である。1回目にひかれて、その後さらにひかれた、という事案。
ただ、漫画の設定は日中に父が子供の保育園の送迎をしていたという設定であり、心臓発作で人が倒れたとしても、さすがに周りの人が対応したのではないか?と感じられる(2人が轢かれるという状況はおきにくいのでは?)。倒れたまま二人が放置されるという状況は考えにくいし、倒れた直後だったら、死んでないんじゃないか、つまり、全体的に漫画の状況はありえないんじゃないかな、と思う。
★被害者の病歴調査
さらにないんじゃないかと感じられることは、弁護士が照会を掛けても、健康保険組合や医療機関は被害者の病歴を簡単に開示しないんじゃないか?ということ。起訴前弁護では無理なんでは?
★保険金額
漫画では、「子供が片足一本、後遺障害4級5号なのに1,000万円そこそこで受理したんだ」とある。
後遺障害別等級表4級5号に、1下肢を膝関節以上で失ったものとある。しかし自賠の保険金額では4級は1,889万円となっている。任意保険は別にしても、1,000万円ではないと思うのだが。保険会社もそこまではしないんじゃないか。
★賠償額
漫画では「弁護士をつけていれば後遺症逸失利益と後遺症慰謝料で7,000万円からの交渉だ。」「それ以外に半年分の入院通院費で500万円は取れる。」
「被害者側についてればざっくり報酬10%で見積もって700万円」
弁護士会の基準 (赤い本2020年版による)なら、4級の後遺症慰謝料は1670万円、労働能力喪失率は92% 後遺症慰謝料、後遺症逸失利益、入通院慰謝料で1億円行くようにも思われる。7000万円は安すぎないか?
最終的な報酬については弁護士報酬が自由化されているので、着手金と成功報酬を合わせて10%という弁護士はいるだろう。私だったらこれよりだいぶ安いことをいうと思う。ただし、このような高額な交通事故の賠償請求事件は普通の弁護士のところにはなかなか来ないなあ。交通事故を専門にやっている弁護士のところに行くのか?それとも被害者側が保険会社との交渉で話をまとめているのか?
「加害者側についている弁護士は金にならない」「今回も加害者側だから着手金と成功報酬併せて300万円。」「同じ事件扱っても相手方の半値以下しかもらえない」
加害者側は、無罪ないしは相当の認定落ち、などがなければ多額な弁護士報酬はないのでは。で日本の司法は有罪率99.99%といった世界だから,加害者側の弁護士の報酬は着手金はさておき成功報酬が?ということになる。
★「結語 私は法律と道徳は分けて考えている」「道徳上許しがたいことでも,依頼者を擁護するのが弁護士の使命だ」
これがひっかるんだよね。前回の投稿に書いたけど、証拠隠滅をすることは弁護士がやっちゃ行けないことなんで、(刑罰法規に触れ、懲戒事由にあたる)道徳上許しがたいことを違法行為をして依頼者の不当な利益のために動き、多額の報酬をもらう、ということになっている。
まさに「九条の大罪」だね。