遺産分割調停の申立に当たり、相続人の確定が大変な作業になることがある。
例えばお父さんが亡くなって、奥さんと子供がいたとする。しかし現在の戸籍だけでは相続人がわからないことが多い。子供が結婚すると戸籍から出て、別戸籍を作る。もしお父さんよりも早く子供が亡くなっていたら、代襲相続と言って、子供の子が代襲相続人になる。お父さんに離婚歴があり、子供がいるが、お母さんの戸籍に入っていたり、やはり別戸籍を作っていることもある。婚外子を認知していることもある。これらは、亡くなったそのお父さんの戸籍をずっと追いかけていくとわかる。
ただ、この戸籍を追いかけていく作業は大変である。
そもそも、本籍は国内ならどこでもよく、変更も自由である。住所地が本籍地であれば社会生活でいろいろ便利なことがあり、転居するたびに本籍地を変更する人もいるが、相続の時はきわめてやっかいなことになることがある。同じ市区町村内なら、相続人を確定するための戸籍謄本類については、○○さんの相続人確定のための戸籍謄本類一切をください、と役所にいえば良いのだが、自治体をまたがっているときは、いちいち追跡しなければならない。
それから、先ほども述べたが、結婚などで別戸籍を作ることがある。やっかいなのは、離婚した場合に元の戸籍に戻ることもあることだ。何回も離婚再婚を繰り返した人の場合はきわめて丁寧に追跡をする必要がある。
またやっかいな点として、戸籍謄本類の種類自体が多いこと。みなさんは、現戸籍、除籍、原戸籍という言葉を聞いたことがあるだろうか。
現戸籍は読んで字のとおり、今も使われている戸籍。除籍は死亡、結婚、離婚等によりある人が戸籍から除かれることだが、全員いなくなれば除籍謄本になる。やっかいなのが原戸籍(現戸籍とまちがえないために、はらこせき、と呼ぶのが普通)。戸籍法の改正などで、戸籍を一斉に書き換えることがしばしば行われる。昭和32年と平成6年の法務省令に基づく改正が大きな改製。
それ以外にも改製があるし、汚損したので改正したというのもある。だから戸籍謄本類の種類は膨大なものとなる。
ちなみに、戸籍には、明治5年式戸籍、明治19年式戸籍、明治31年式戸籍、大正4年式戸籍、昭和23年式戸籍とたくさんの種類があることもやっかいである。また、古い戸籍は毛筆で書かれており、当時の人は読めたのかも知れないが、我々は読めないものすらある。そして、氏名に変体仮名がもちいられていることもある。
また、戦災で戸籍自体が焼失している場合もまれにあり、これは様々な方法で特定する。記憶によったり、お寺の過去帳で特定したことがある。
子供がいない人の場合は相続関係が複雑になることが多い。それは,親が亡くなっていれば、兄弟姉妹が相続人になり、その兄弟姉妹が亡くなっていれば代襲相続で孫が相続人になる。
子供がいないご主人が亡くなり、土地建物があったが、しばらく相続手続きをしないうちに、奥さんが亡くなり、双方の兄弟姉妹が相続人となったので混乱して放置したら、どんどん相続人の中になくなる人が出て、結局相続人は100人近くになった事件があった。
これは,相続人を確定するための戸籍謄本類を取り寄せるだけで莫大な手間とお金がかかり、読むのも相続関係図も作成が困難だった(このような仕事は一挙にやらないと、次にやるときには内容を忘れてしまい、何回も何回もやっては終わらず、やり直しては終わらず、ということになりかねない)。
なんとか遺産分割調停の申立は出来たが、担当した書記官ですら、「謄本類を見ると、頭が痛くなり,気持ちが悪くなった」と表現した位だった。